私はいまだに「スチュワーデス」とか「スッチー」という言葉を思わず使ってしまうことがあります。なぜスチュワーデスが死語となったのか?「キャビンアテンダント」という和製英語は何? 事情を調べてまとめてみました。(文中敬称略)
「スチュワーデス」という呼び方が消えた理由は「職業蔑視」ではない?
1980年代にTVドラマ『スチュワーデス物語』や人気を得たり、日常的に「スッチー」という略称を使ったり・・・
かつては航空機の客室乗務員の女性を「スチュワーデス」と呼ぶことが一般的でした。
しかし現在ではスチュワーデスという言葉は死語となりました。また各国によって呼び方が異なります。
- 英語ではキャビンクルー(Cabin Crew)
- アメリカではフライトアテンダント(Flight Atendant)
- 日本ではキャビンアテンダント(Cabin Atendant)
と呼ぶのが一般的とのこと。
スチュワーデスの言葉が消えた理由の誤った情報?
「スチュワーデス」という用語が使われなくなった理由としてネット上で目にする情報には「誤り」らしきものもあります。
例えば「スチュワーデス」という言葉を使わなくなった理由として次のような内容。
スチュワーデスの男性版「スチュワード」の語源は、古代の英語「stigweard」。
stigは「豚小屋」、weardは「番人」で、「豚小屋の番人」を意味する。だから職業蔑視の差別的用語だから避けられた。
スチュワード・スチュワードの語源「豚小屋の番人」は重要な役職
古代ヨーロッパでは家畜は大切な財産。その管理を担う「stigweard(=豚小屋の番人)」は重要な役職で、蔑みの対象ではありません。
その流れから、使用人の階級のトップにあたる役職が「スチュワード」であり、よく聞く「バトラー」よりも上位の職位とされていました。
つまり、スチュワードやスチュワーデスという呼び方は、重要な責務を担う職業を表していたのです。
つまりStewardessは、飛行機でお客様の安全を守る保安要員であり、病人が出れば、救命あるいは看護士の役目も果たし、かつ快適な空の旅ができるよう気持ちの良いサービスを提供する達人でなくてはなりません。
機内でそうした複数の重要な責務を担う女性の職業として、この名称が与えられたのだと思います。
「ウーマンリブ運動」や「ポリティカル・コレクトネス」性差別への配慮?
そんな「スチュワーデス」という言葉が避けられようになったのは、2つの背景があります。
- ウーマンリブ運動(Women’s Liberation)
- ポリティカル・コレクトネス(Political correctness)
この2つの世の中の流れから「性差別」への配慮が必要となり「スチュワーデス」に代わる「フライトアテンダント(Flight Attendant)」という米製英語がアメリカで生まれたのです。
スチュワーデスのお色気路線CMに対するウーマンリブ運動の猛抗議
1967年、アメリカの2人の元スチュワーデスが体験談をもとに「Coffee, Tea or Me?」という本を出版し、そのスキャンダラスな内容が大きな話題を呼びます。
そこで航空会社は、スキャンダラスな話題を過剰に利用。
TVコマーシャルなどの広告媒体にスチュワーデスを使用して意味深なセリフを言わせる等、お色気路線に走ったのでした。
そして航空会社は全米の女性団体から猛烈な非難を浴びます。
いわゆるウーマンリブ運動(=1970年代初頭にアメリカ合衆国や日本などの先進国で起こった女性解放運動)です。
「ポリティカル・コレクトネス」差別や偏見のない用語を使うべし
このウーマンリブ運動の流れに加え、「ポリティカル・コレクトネス(Political correctness )」の意識が高まります。
ポリティカル・コレクトネス(=政治的に正しい言葉遣い)とは、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のこと。
この大きな動きの中で「性差別」のない表現が求められるようになりました。
そしてアメリカでは1970年代の終わりには、スチュワーデスという呼び方はせずにフライトアテンダントという言葉を使うようになったのです。
この流れに加え、米国で1980年代後半から始まり1990年代にピークを迎えたPolitical correctness (政治的に差別しないような表現)という意識の高まりがあります。
黒人をアフリカ系米国人(African American)と呼ぶなど人種への配慮の他に、例えば議長はChairmanでなく Chairperson、Businessman をBusinessperson とするなど、性差別のない表現が積極的に用いられるようになりました。
こうした背景から米国では早くも1970年代の終わりにはスチュワーデスを、フライトアテンダントと呼ぶようになりました。
キャビンアテンダント(CA)は、もとはJALの”社内テレックス用コード”
日本では「スチュワーデス」の代わりに「キャビンアテンダント(Cabin Attendant)」という呼び方が一般的にが使われるようになりました。
なぜ「キャビンアテンダント=CA」になったのか? 意外なところに理由がありました。
テレックス料金節約のため通信は短縮した英単語を使用していた
過去のインターネットが普及していない時代、海外との通信はテレックスを使っていました。
テレックスとは、テレタイプ端末を使用した不特定の相手方との文字による通信方式です。
日本航空(JAL)でも、海外支店とのやりとりはテレックスを利用。文字数によって課金されるテレックス料金を節約するため、通信には短縮した英単語を使っていました。
例をあげれば・・・
- ”As soon as poaaible” = ”ASAP”
- “Thank you”=”THNX”
- “Weather”=”WX”
「客室乗務員(Cabin Crew)」と「パイロット(Cockpit Crew)」の「C/C」ダブリを回避
当時のJALの客室乗務員は集合名詞として「Cabin Crew」を使用していました。
しかし、この「Cabin Crew」をそのまま短縮した場合は「CC」となり、パイロット(Cockpit Crew)たちの職種コードである「C/C」と区別がつかなくなります。
そこで考えられたテレックス用語が「Cabin Attendant」。テレックス用コードは「C/A」となりました。
そしてこの「キャビンアテンダント」という用語は、ドラマ等を通じて世間に広がっていったのです。
Cabin Attendant「C/A」は、社内テレックス用コードだったのだ。それが、1970年のTVドラマ「アテンションプリーズ」で使われていたため、世間に広がるようになった。その後、メディアが「キャビンアテンダント」を使うようになった。