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2002年時のみずほHD社長の暴言報道。国会質疑の文脈を読み解いてみた。きらぼし銀行の発足初日のシステム障害から遡ること16年前、同じく合併直後にトラブルを起こしたみずほ銀行。持株会社の前田社長が衆議院に参考人として招致され「取引先に実害はなかった」と暴言を吐いたというニュースが駆け巡り、更に袋叩きに合いました。当時の議事録を読み解いてみると、単純な暴言とも言い切れない事実関係が分かります。

衆議院に参考人として招致「前田晃伸氏」実際の質疑応答

2002年4月9日、株式会社みずほホールディングス(みずほ銀行の親会社)の前田晃伸社長が衆議院の財務金融委員会に参考人として招致され、、当月に発生したみずほ銀行の大規模システム障害に関して質疑応答が行われました。

第154回国会「財務金融委員会」第10号

国会の会議録は全文検索ができます。こちらから問題の衆議院質疑の議事録を入手しました。

この検索システムでは、第1回(昭和22年5月)以降の国会会議録を、テキストとデジタル画像でご覧いただけます。会議名、発言者名、発言内容等で検索できます。

 

財務金融委員会の議事録全部

当該委員会の議事録全部のPDFです。問題の前田社長の「実害はなかった」発言に係る部分は5~8ページの箇所になります。

衆議院_財務金融委員会_10号_平成14年04月09日

 

html形式の議事録全文 ↓

 

議事録抜粋(一部要約)

生方委員

【要約】難しいシステムの話はいらないので、平易に何が原因でこうなったのか、簡潔に教えてほしい。

前田参考人

【要約】システム障害はリレーソフトのエラー。口座振替は運営方法や手順の混乱による事務渋滞。250万件は1日分程度の遅れ→今現在は15万件

生方委員(A) その250万件は処理数であって、それがちょっとおくれただけだというような認識のようですけれども、このトラブルによってどれぐらい実害が出たというふうに把握なさっていますか。
前田参考人

【要約】口座振替は(委託者の)企業への入金時期が若干ずれている。二重引き落としは当然返金した。通帳に記録が残るのは申し訳ない。

生方委員 その大口の契約者についてはどういう措置をとるということですか。もう一度、ちょっと聞こえなかったので。
前田参考人

【要約】大口の例えば東京電力等は、概算支払したりして個別に対応している。

生方委員

【要約】1日入金が遅れれば受取金利が少なくなるし、顧客への連絡コストもかかる。その辺も個別対応するということか。

前田参考人

【要約】委託者は1万社くらいある。契約が個別に違うため、誠心誠意相談させてもらっている。

生方委員(B) 一般の顧客や中小企業、いろいろな振り込みをやったりしている業務ができなかったということがあると思うんですけれども、それについての被害というのはどういうふうに認識をなさっていますか
前田参考人

お取引、確かにたくさんいただいておりまして、手形を引き落とすとか振り込みをする、それから代金決済をするとかいろいろなお取引がございますが、ここにつきましては、お取引先に十分御相談等をさせていただいております。現在までのところ、このシステム上のトラブルでお取引が全くできなかったとか、会社が金繰りがおかしくなったとか、そういうようなことは聞いておりませんが、いずれにいたしましても、これは私どものシステムトラブルでございますので、お客様と誠心誠意御相談させていただきたいと思います。

生方委員 我々みたいに、一般の個人のお客に対してはどうなんですか。
前田参考人(C)

お答えいたします。
 先週の四月五日の日からコールセンターを設けまして、一般のお客様から直接いろいろ御照会、御質問、口座から落ちたかとか、二重に落ちていないか、どうしたらいいの、クレジットカードの代金はどうなったとかいう御照会を、土日を含めてずっとコールセンターでお受けいたしております。

 初日、二日、三日と、開設以来約一万件の御照会がありますが、その中で一番多い御照会は、クレジットカードを使ったが代金決済がちゃんと落ちているのかという御照会がございます。それから、あとは、いろいろな御照会がございますが、主として……(生方委員「いや、照会を聞いているのではなくて、被害をどういうふうに考えているのか」と呼ぶ)

それで、この件につきまして、直接に例えば御利用者の方に実際に実害が出たというようなことではございませんが、まさにクレームが大量に来たということでございまして、そういう意味で大変申しわけないと思っております。

生方委員(D)

やはり認識がちょっとおかしいのじゃないですか、実害が出ていないというのは

二重に引き落とされたかもしれないというふうになれば、私だっておたくのところに多分口座を持っていると思います。だから、さっき言ったみたいに、三千万総合口座があるわけでしょう。

それで、実際にトラブルが発生したのは百四十七件というふうになっているかもしれません、二重引き落としは。

なっているかもしれませんけれども、三千万のほとんどの人が、自分もそうかもしれないなと思ったら、これは銀行に行くんですよ。銀行に行って、自分の通帳を見て、それで、ああ二重になっていなかったと安心をするわけで、そこに、銀行に行く手間と銀行に行く時間と、それだけをロスさせているんですよ。それを被害と言わないで、あなた、そういう意識が全くないじゃないですか。何を考えているんですか、一体。

 三千万口座あって、みんなが不安に思っている。もっと大きく言えば、日本の決済システムというのはやはり誇るべきものであって、日本の国民は銀行さんに任せているわけですよ。御承知のように、アメリカだったら、請求が来たとき小切手で払いますね。銀行から自動引き落としにする人は、アメリカでは非常に少ないんですよ。

これは銀行を基本的に余り信用していないからで、日本の場合は銀行を信用しているから、私なんかも、こう言ってはあれですけれども、余り銀行の通帳なんか見たことがないような、勝手に引き落とされて、それはもう間違いがないだろうというもとで任せているわけですよ。

 その決済システムの信用そのものをあなたは壊したのですよ。そういう自覚が全然ないじゃないですか。二百五十万のがちょっとずれただけだと。ちょっとずれたことだって、振り込みが一日おくれたらつぶれる企業だってあるんですよ。

今現在は出ていないかもしれないけれども、あなたはないというふうに、そんなこと断言できないでしょう。どういう認識なんですか、一体。国民に何の迷惑もかけていないと思っているんですか、あなたは。

前田参考人(E)

まことに申しわけございません。説明の仕方が非常に不十分で、適切でない説明でございました。まことに恐縮でございます。実害がないといったお話の仕方は大変ミスリードいたしまして、申しわけございません

もともと、大変に御迷惑をおかけいたしております。それから、銀行のシステムで、二重に落とすということ自体が信用をまず落としたということを我々も十分自覚いたしております。

 それで、それをもちろん訂正させていただきますが、そういう意味で信用そのものをなくしたということについては、私も銀行に入って三十何年になりますが、私どももこのように預金の残高がおかしいとかいう事態になったのは初めてでございまして、それは一刻も早く復旧させていただきたいと思います。

 失った信用は大きいのでございますが、ここは大変恐縮でございますが、必死で頑張りますので、ぜひ御理解いただきたいと思います。

 

生方氏と前田社長の質疑応答「言葉の解釈」の食い違い

まず、私はみずほ銀行の味方をするつもりは一切なく、前田氏についても(富士銀行出身だからとか)擁護する気も全くありません。

その上で客観的にやりとりを観察すれば、質問者と回答者のそれぞれが持っていた「実害」という単語の解釈の違いが浮き彫りになってきます。

かつ前田氏がすぐに解釈の違いに気がついてお詫びをしているのに、その点は全く取り上げられない・・・というマスコミにありがちな「印象操作」であったと言えます。

 

「実害」と「被害」の定義をあいまいに使う生方氏

生方氏は(A)で前田社長に対し「どれくらい実害が出たというふうに把握しているか?」と質問しています。この質問の内容であると

「実害=ざっくりとした金額イメージ」

と受け取るのが自然です。しかしながら生方氏は(B)で

 

「(一般客や中小企業が振込等できなかったことについての)被害はどのような認識をしているか」

「実害の把握」から「被害の認識」へ言葉を変えています。この流れからすると

 

「被害=金額に限らず、更にざっくりとしたイメージ」≠「実害」

という解釈になるのが普通です。

 

前田発言の真意・・・コールセンターに直接「実害」を訴える利用者はいなかった

前田氏の(C)での発言は「コールセンターに来た1万件の照会電話はクレームばかりで、その電話で直接『●●●円を失った=実害』を訴えるご利用者はいなかった。」という意味に捉えるのが自然です。

しかしながら生方氏は(D)で更にこう発言しています。

「被害=銀行に行くためにロスした手間と時間」

もはや、冒頭の『実害=金額イメージ』と『被害=金額化が難しいロス』は別物になってしまっていますが、2つの用語を混同していることに気が付かない生方氏はエキサイトしていきます。

 

言葉の解釈の食い違いに気がつき謝罪する前田社長

恐らくこの「実害」と「被害」の単語の定義(解釈)の食い違いに気がついた前田氏は(E)で謝罪します。「説明の仕方が非常に不十分で、適切でない説明だった」「実害がないといったお話の仕方は大変ミスリードいたしまして、申しわけございません」

 

言葉をあいまいに使うから良くない

「実害」や「被害」は上に挙げたようにいくつもの解釈ができます。特に職業や立場が違う場合には、同じ言葉でも全然違う意味で捉えていることもあります。自分自身も意識するようにはしていますが、熱くなるとなかなか難しくもなりますね。

 

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