信用調査会社(帝国データバンクや東京商工リサーチ等)の報告書を盲信して手抜きをするお粗末な金融機関があります。調査員も呆れる調査書の利用方法。かつ昨今の企業信用調査の実態を知れば、実に愚かなことだと分かります。(文中敬称略)
調査報告書を盲信する「悲しい」金融機関
A信用金庫は東京都に本店を置く信用金庫で、店舗数は約60、預金残高の規模では全国15位くらいの準大手です。
私が勤める”メガネ小売チェーン OWNDAYS / オンデーズ”との取引は過去にもなく、相談やセールス等で接触したこともありませんでした。
A信用金庫の営業マンがテレアポで面談予約を入れてきた
ビジネス小説『破天荒フェニックス』※1 に描かれたように、OWNDAYSは7年の苦難の時期を乗り越えて、銀行取引の正常化(=返済リスケジュール状態を解消)を果たしました。
ニューマネーの借入も実現して資金繰りが落ち着いたころ、A信用金庫の営業マンからOWNDAYS本社へ電話がかかってきました。
財務経理の責任者として私が電話に応答します。
「一度ご挨拶にお伺いしたい」
「借入なら、もう手当てがひと通り終わったので必要ありません」
銀行等の営業マンは訪問目的をまず言いません。先手を打って牽制しました。
「そんなことおっしゃらずに、ぜひチャンスを下さい」
「いや、もう間に合っていますのでお断りします」
「そこを何とか! 情報交換だけでもさせて下さい」
「そもそも『挨拶だけとか情報交換』という趣旨でお会いすることはありません。私も元銀行員なので事情は分かります。何度か会って~小出しの情報を入手して~資金ニーズを把握して融資セールス~といったプロセスは無駄だと考えています」
「そ、そうなんですか・・・」
金融機関の営業マンお決まりの文句「情報交換だけでも」が出ました。
私はこの自分勝手な理由が大嫌いです。会社側が有用な情報を得られることなど、まずありません。
「お会いするのであれば、一発勝負です。初回に稟議に必要な資料一式をお渡しますので、金額1億円以上・期間5年以上の長期運転資金を無担保で融資できるのであれば、取引を始めましょう。さもなければ、それっきり出入り禁止です」
「は、はあ・・・」
「アプローチして来られる銀行さんに対しては全てそのように対応しています。それでも構わなければお会いするお時間を作りましょう」
「分かりました!ぜひチャンスをください。来週お伺いします!」
1週間後の面談のため相当量の資料を準備した
A信用金庫は、1週間後に来社面談をすることになりました。
私はいつものとおり、面談に備えて稟議用パッケージを準備しました。80mmのパイプ式ファイルが一杯になるくらいのボリュームです。
経験上「これがあれば融資の稟議を作成できるはず」という資料を整理してファイリングしたものです。
『一発勝負』というからにはこちらもいい加減な資料は提供できません。
「取引開始となるか出入り禁止となるか」の真剣勝負です。
A信用金庫の担当者の話に呆れ果て出入り禁止にした
テレアポがあった1週間後、A信用金庫の営業マンが来社しました。私はファイルを抱えて応接に入りました。
まずは会話をしたうえで、能力に問題がありそうな営業マンであったり、金融機関の方が及び腰になった場合には、資料を渡すことなくお帰りいただくこともあります。
A信用金庫の営業マンは挨拶を終えるといきなり切り出しました。
「実は、お電話の後に帝国データバンクの調査報告書を取り寄せて社内で協議した結果、今はご融資できない・・・今期の決算結果つまり来年にならないと検討はできない、という結論になりました」
「・・・・・・!?」
A信用金庫の営業マンの口からいきなり出てきた言葉に、私は自分の耳を疑いました。
「・・・えっ・・・!?」
「申し訳ありません・・・」
「帝国データバンクの報告書って・・・前期決算の翌月に劣後ローンを入れたりしてますよ」
「それについても書かれていました」
「・・・で、何もヒアリングすることなく?」
「はい・・・」
「それなら、ノーになった時点で連絡してくれたら良いじゃないですか? こちらは資料も準備しているのに」
「申し訳ありま・・・あっ!?」
「もうお帰り下さい! 金輪際、出入り禁止です」
私は、もはやこの無駄な時間に付き合いたくありませんでした。
A信用金庫の営業マンに応接室から退室することを促すと、追い立てるように見送りました。
面談時間は正味5分もなかったかも? わたし史上最短の面談になりました。
信用調査会社の調査の限界と評点の信ぴょう性
様々な理由で信用調査会社に情報を開示しない企業もあります。
信用調査会社の調査員でさえ「参考程度にしてほしい」と、調査報告書が与信判断の主軸とされる事態をボヤいていました(後述)。
そもそもNDA(秘密保持契約書)も交わさずに詳細な情報を取得しようとする体制や、無償で商材を仕入れようと1~2時間も企業側を拘束する姿勢は、もはや時代にそぐわないビジネスモデルだと思います。
海外進出を成功さえるために情報統制を敷いたオンデーズ
2015年、オンデーズがシンジケート・ローンを組成する際に、複数の金融機関へ打診したときにも信じがたいことがありました。
取引のない銀行が「帝国データバンクの評点が低いから」という理由で、本格的な検討に入る前の段階で融資謝絶したのです。いわゆる足切りです。
実は、シンガポールへの進出を始めて大きな成功が見込まれた時点で、オンデーズでは厳しく情報統制を敷きました。
海外の売上数字等の共有は、役員と一部の幹部限りとされました。
社内にも社外にも「海外進出が成功している」という事実は極秘扱いにしていました。資金力のあるライバル社がすぐに後を追ってくるのを恐れたのです。
帝国データバンクと東京商工リサーチの2大信用調査会社に対しても、私は情報開示とインタビューを一切お断りしました。
それまでは、決算書の明細をフルオープンにして、インタビューに積極的に応じていた姿勢を一転させたのです。
信用調査会社の担当者には「業界全体が”情報戦”の様相を呈しているので」と説明し、事情を理解していただきました。
しかし、決算情報が取得できない企業は、ルールとして相当に評点を下げざるを得なかったとのことです。
調査員「融資審査の補完資料と一つして利用してほしい」
A信用金庫と会う数週間前に、私は信用調査会社(帝国データバンクか東京商工リサーチ)の調査員と面談をしていました。
私が調査員に「金融機関が調査報告書を融資審査の足切りに使っていて呆れている」と、前述のシンジケートローン組成の際の事例を話しました。
すると、事情を聞いた調査員は次のように言ったのです!!
「私たちとしては、あくまでも融資審査の中の一つの参考資料として利用してもらいたいと思っている。
あくまでも表面的に取得できただけの情報でもって判定を行っているので、必ずしもその会社の実力を正しく表しているわけではない。
報告書だけで融資判断をされるのは、自分たちとしても本意ではない」
さらに信用調査会社の調査官の話では、特に(当時のオンデーズのような)再生途上の成長・有望企業については、ルール上低い評点が出てしまうため、報告書の評価の信頼性には限界があるということでした。
もう銀行ルートでは有益な情報は取得できない
実際、私が銀行員だったバブル期からしばらくの間は、信用調査会社の調査員が銀行に来店すると、かなりの時間を割いて会話をしながら情報交換をしていました。
しかしやがて、世間で情報管理が厳しく追求されるようになると「調査対象会社と銀行の取引有無」でさえも口外禁止となりました。
調査員が来店しても、ほとんど門前払いに近い対応となっていったのです。
最大の情報ソースであった銀行員との会話が出来なくなった信用調査会社。その調査報告書の信ぴょう性が低下せざるを得ないのは当然のことです。
金融機関の担当者によってここまで違う
会社から直接に何も資料を取得せず、ヒアリングもせず「融資検討できない」と言ってきたA信用金庫は「アンビリバボー」でした。
ちなみに、ほぼ同時(A信用金庫の翌日)にテレアポで来社した「D銀行(地方銀行)」の担当者は、準備していた全く同じ資料を持ち帰り、データを読み込み、何度か電話でヒアリングを行い、結果として2週間もかからずに1億円の長期運転資金の決裁を引き出してきました。
このD銀行は他と比較しても相当に「デキる」担当者だったのは間違いありません。
しかし「それにしてもこの落差は何・・・」といった印象は否めません。