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銀行と担保「抵当権の登記留保」仮登記との違いと抜け穴を知る(2)

担保不動産の登記を保留する「登記留保」の取扱い。「不動産権利証を預かっているから勝手に売却できない」というのは妄想です。私が銀行員時代に実際に経験した「抜け穴をつかれた」事例を紹介します。(文中敬称略)

業績悪化により「要注意先」へ転落したW社

当ブログの 銀行と担保「抵当権の登記留保」仮登記との違いと抜け穴を知る(1) では、不動産担保の「登記留保」扱いの抜け穴(=銀行にとってはリスク)を説明しました。

この「登記留保」の抜け穴について、私の銀行員時代に実際に経験した事例を紹介しましょう。

2000年「民事再生法」が施行された年に「要注意先」へ転落したW社

西暦2000年は倒産法のひとつである「民事再生法」が施行された年でした。

私が勤務していた銀行の融資先であるW社は、数年前にある一つの商品が大ヒット。

銀行は「成長有望先」としてW社へ日参し、融資取引を始めていました。

しかしその後のW社はヒット商品に恵まれず、業績も急降下していました。

そのため、銀行はW社の債務者区分(≒銀行による格付)を「正常先」から「要注意先」へランクダウンさせました。

「要注意先」というのは簡単に言えば「不良債権の予備軍」という位置づけです。

▼「債務者区分」テーブル(通常は3~5を不良債権と呼ぶ)

正常先
要注意先
破綻懸念先
(はたんけねんさき)
実質破綻先
(じっしつはたんさき)
破綻先
(はたんさき)

 

 

貸出金利の強引な引上げのターゲットとなった「要注意先」

当時、金融危機で収益確保に躍起になっていた銀行は、貸出金利の引き上げに動いていました。

特に重点的に狙われたのは、業績が悪化により「後ろ向き方針」となった融資先です。

具体的には債務者区分(≒格付)が「要注意先」に落ちた先です。

「格付」と「取引状況」からなるマトリックス表で「適用貸出金利ガイドライン」が明確に定められました。

このガイドラインの意味するものは「この格付と取引状況であれば、かかるコストは●●●円だから、最低●●%の貸出金利をもらわないと銀行は採算がとれない」・・・

・・・そう。「何をいまさら」と突っ込みたくもなる、完全に銀行都合の理屈です。

「要注意先」に転落したW社に金利の引上げを通告した

業績が悪化してから私が担当したW社に対しても、「要注意先」となったため「金利ガイドライン」をぶつけるべしという方針となりました。

私はW社を訪問してガイドラインを説明したうえで「来月の返済分から金利は●.●%とさせていただきます」と告げました。

「嫌なら返済してくれ」と言わんばかりの、いきなり5%以上も金利が上がるべらぼうな条件です。私は相当な反発(怒号も)を覚悟していました。

薄ら笑いを浮かべたW社の社長

ところが、金利引き上げを告げたとたん、W社の社長と経理部長が薄ら笑いを浮かべたのです。

「ああ、そうですか」

と拍子抜けするような反応。

「もう抵抗しても無駄だと観念したのかな?」と思いつつ少し嫌な予感がしたのも事実です。

突然に民事再生を申し立て、担保不動産を勝手に売却していた

金利引き上げを通告した翌週、W社は民事再生手続きを申立てしました。夕方に銀行へ送信されてきた1枚のFAXでの連絡です。

私は慌てて司法書士へ連絡して不動産の登記簿謄本の取得を手配しました。

W社に対する融資の不動産担保は「登記留保」としていた

銀行は、W社への融資に対して、社長の自宅(不動産)を「登記留保」扱いとしていました。

契約書や不動産権利証を銀行で預かり、登記申請は保留する方法です。

想像するに、融資取引を始めた当時のW社は飛ぶ鳥を落とす勢いの「有望先」だったことから、当時の担当者は取引を「お願い」する立場。

その力関係から、不動産担保は「登記留保」とせざを得なかったのでしょう。

勝手に売却されていた担保不動産

W社の社長の自宅の不動産登記簿を入手してみると驚きました。少し前に社長の親族に売却されていたのです。

売却された不動産の権利証は銀行が預かっています。

W社の社長は「権利証紛失」として所有権の移転登記を行ったのでした。

債権者から総スカン→再生計画が否認されて破産した

こういった「あざむく行為」を銀行は極端に嫌います。粉飾決算も同じです。

当時の銀行では”前例がまだない”二番目の「民事再生」だった

実は、法律ができて間もないタイミングであったため、W社は富士銀行の中でも二番目に起きた「民事再生」案件でした。

前例のない案件のため、本来であれば、対応については慎重に検討されるべきです。

しかしながら、W社の社長の”裏切り”行為が判明した時点で、「再生計画には絶対に賛成しない」という空気が固まってしまいました。

民事再生の再生計画は債権者によって否認され破産へ

社長の裏切りは、債権者集会でも話題となり、怒号が飛び交う集会となりました。

W社の社長の信用は地に落ちてしまいました。

当然ながら、再生計画案は債権者によって否認され、W社は破産してしまったのでした。

不動産担保の「登記留保」の抜け穴をついて不動産を「あざむいて避難させた」W社の社長。

個人の資産は守られたかもしれません。しかしその保身行為が(もしかしたら再生できたかもしれない)会社の息の根を止めてしまったのです。

結果として従業員を見捨てたわけです。

経理部長も自責の念に耐えられなかったのか、民事再生の申立ての連絡があってからまもなく退職してしまいました。

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