事業に失敗!でも借金苦で自殺なんてダメ、絶対に。銀行で債権管理回収の業務を行っていたとき、残念なことに、将来を悲観して自ら命を絶たれたお客様がいます。銀行から離れた立場にいる今こそ、言えること、伝えるべきことがあります。(文中敬称略)
金融機関への借入返済に苦しみ悩んでいる方々へ
金融機関(この記事では以下、便宜上「銀行」と表現します)からの借入の返済が苦しくて悩んでいる方々。
特に次のような事情により返済が困難になっている方に伝えたいのです。
- ギャンブル等で浪費したわけじゃない
- 真面目に事業をしていて負った借金がある
- 事業が上手くいかなくなり返済が苦しい
そんな状況になったとき、死のうなんて考えないで下さい。
「銀行の督促が厳しくて追い詰められている。もうお先真っ暗だから、死のう。残された家族が不憫だからみんな一緒に心中だ・・・」
ちょっと待った!!
楽になる方法は、他にもあります。その一つの手段である「DOP」という仕組みを知っておけば、何かしら一助となるかもしれません。
★借金について「借入金」「負債」「債務」と、色々な表現を使いますが、基本的に同じ意味です。
自暴自棄になる前に出来ることがある
「銀行の常識は世間の非常識」・・・ときどき見聞きするフレーズです。本当にそのとおりだと思います。
非常識な銀行員に振り回されて、大切な自分の人生を棒に振る必要などはありません。
銀行の担当者を罵倒しても根本的には変わらない
目の前の借金取り・・・銀行の担当者を恨んで罵倒しても、根本的な解決にはなりません。
彼ら個人の物の言い方に問題がある場合には厳しく咎めることも必要です。しかしそれで借金が減るわけではありません。
私もかつて「貴様、夜道に気をつけてろ!」と脅されたことがあります。
20年近く過ぎた今でも、駅のホームでは、列車が入ってくる前に後ろを気にし、足を踏ん張る習慣が抜けきりません。
上司の自宅には嫌がらせ電話が頻繁に来る時期もあったそうです。
担当者個人がそういう精神的な苦痛を負ったとしても、銀行が組織として督促の手を緩めることはありません。
そのようなストレスに耐えられない銀行員は無能とみなされます。
いたずら電話・脅迫電話への対応策
余談ながら、私の上司が警察OBから教わった簡単な「いたずら(脅迫)電話対策」をご紹介しましょう。
用意するものはホッチキス1つです。
- 電話機の横にホッチキスを置いておく
- 受話器を取ったらすぐ、送話口の前でホッチキスを『カチャッ』と鳴らす
これだけです。
すると相手側は録音されていると誤解して警戒する。場合によってはそのまま電話を切ってしまう。
人の道から外れた担当者は通報すべし
とは言え、道義的に許せない言動を見せる銀行の担当者は存在します。そういう輩は銀行の本部(サービス監査室、人事部とか、役員室等)または金融庁に文書で通報しましょう。
本人や上司に直接文句を言っても揉み消されるだけなので、より中心に情報を発信する方が良いです。
できれば内容証明郵便の方がインパクトありますね。ちょっと調べれば作成方法は出てきます。特に弁護士とかに依頼する必要もありません。自分で出来ます。
私も、オンデーズの再生に取り組んだこの10年の間に、道義的に許せない銀行の担当者が数名います。
実名を晒して具体的な非道行為を書面に落とした「業務改善指導要請書」を金融庁へ送る準備をしています。
銀行員OBとしても沽券にかかわる、絶対に許せないやつがいます。
あなたの命・家族の生活、銀行の顔色、どちらが大事?
無理のない範囲まで節約の努力をしたならば、身を削ってそれ以上の返済を行うべきではありません。
銀行によっては「車を処分した方が良い」とか「自宅を処分した方が良い」とか”アドバイス”と称した働きかけをしてくるでしょう。
しかし冷静になるべきです。相手の目的は「不良債権回収の極大化」。あなたの今後の生活が第一義ではありません。
可能な範囲での返済金額で良いのです。「当初の契約ですから!」と従来の返済金額を要請してくる銀行もあるでしょう。
しかし状況が変化したならばそれに応じて契約も見直すことは、経済活動において当然の真理です。
『銀行の常識は世間の非常識』
強硬な物言いをしてきたら、こんな言葉をぶつけ返してあげましょう。
Discount Pay Off(DPO) という仕組みを知っておこう
債権売却の仕組み
ドラマ「ハゲタカ」のあるシーン。
不良債権を「ハゲタカ」ファンドへまとめて売却(=バルクセール)する際に、債権リストの買取金額に「1円」がずらりと並んでいました。
「換金できる担保」がない、こういう二束三文で買い叩かれる債権(=貸出金)は『ポンカス』と呼びます。冗談ではなくて、普通に使われる金融用語です。
銀行が売却する債権は2種類に区別されます。
- コア債権
- ポンカス債権
『コア債権』は価値のある担保がついている貸出金。担保の換金性と見込金額に応じて、数百万円~数億円の買取査定がつきます。
一方『ポンカス債権』は、担保による回収は見込めません。債権を買い取った第三者は、借入人や保証人と交渉して返済総額を握ることもあります。分割返済で数年かけて回収するか、一括で支払ってもらいます。
ここまで読んで気が付きましたか?
担保の処分や返済総額を握って、一部を返済したら、残りの残高はどうするのか?
残りは放棄(支払免除)してもらいます。事実上の借金棒引きです。
債権の管理コストとリターンを天秤にかけた場合、買い取った側は長期にわたる回収は選択しません。極力早期に利益を確定したいのです。
これがDPO(Discount Pay Off)の基本的な仕組みです。
(もう少し複雑なパターンもありますが、ここでは割愛します)
銀行は債権放棄をしない
『第三者に債権を売却するとか、そんな面倒くさいことをやらずに、銀行が自分で債権放棄すれば良いじゃないか!?』・・・そう思うかもしれません。
銀行は、借り手側の『モラルハザード』を恐れます。基本的に債権放棄は避けます。
『私的整理に関するガイドライン』や『事業再生ADR』といった制度に則って行なわれる、ごく限られたパターンと、経済社会に与える影響が多大な超大企業に限定されます。
こういった「債権放棄」のニュースを見て「うちの会社も債権放棄してもらおう」などとは、ゆめゆめ思ってはいけません。
サービサーへの債権売却は怖くない
銀行本体では債権放棄ができないため、登場するのがサービサー(債権回収会社)です。銀行が子会社としてサービサーを持っている場合もあります。
銀行は債権回収に係るレピュテーションリスクも気にするため、筋が悪い先には債権売却を行いません。きちんと許可を取得して法に則った回収を行うサービサーを選定します。
基本的には「誠実に対応すれば話は聞いてもらえる」相手です。
「おれは、ちゃんと払ってるしーー!」
と、たまの入金であったり、遅滞を繰り返しているにも関わらず、全く悪びれずに開き直る借入人も存在します。これはNGです。
前述した「出来る範囲内での返済」の交渉は、真摯な態度でなければいけません。
銀行によっては「債権売却してしまうぞ!(だから返済額を増やせ!)」と脅しをかけてくるところもあります。ひるんではいけません。
特に担保を入れていない場合なんかは、(「なら売れば?」くらいの)堂々とした態度を取っていれば良いです。
銀行は潰せない取引先をサービサーにDPOさせる
銀行側として、様々な理由から倒産させることができない、かつ銀行自身では債権放棄ができないような中小企業に対し、サービーサーを使ったDPOが行われています。
地方銀行でサービサーと提携して立ち上げる「再生ファンド」の多くは、銀行が戦略的にDPOを活用するツールとなっています。
事前に「この取引先は大事な先なので債権譲渡後もきちんとした対応をお願いしたい」という銀行側の意向を汲んでくれるサービサーを優先的に入札に参加させているのです。
借入人だけでなく保証人にも当てはまる一例
延滞が長期化したため、サービサーへ債権を売却した会社があります。社長のお姉さんが連帯保証人に入っていました。
お姉さんはその会社の経営には全く関わっていません。債権売却の手続が完了してしばらくして、そのお姉さんが銀行に来店しました。憔悴しきった表情をしています。
「●●●という会社から『債権の譲渡を受けたので、すぐ5千万円を返済しろ』という通知が届きました・・・私、どうしたら良いのでしょうか? そんな大金を払えるわけないし・・・もう、人生終わりかしら・・・」
涙目になりながら、ぽつぽつ話すこのお姉さんを前にして、私が言えたことは、
「残念ながら、このお借入は銀行の手を離れてしまったので、●●●とご相談下さい」
これだけです。
(●●●は形式的にそういう内容の督促状を送っているが、彼らも5千万円をまるまる回収できるとは思っていませんよ。売却金額なんて二束三文だから、きちんと交渉すれば、可能な範囲での返済で済むかもしれません。そんなに気を落とさないで下さい)
と声をかけたくても、私の立場では許されないのでした。