ビジネス小説『破天荒フェニックス』オンデーズ再生物語では、CFOの奥野が買収当初から一直線で資金繰りとの闘いに突入する描写になっています。しかし実際には、正式に銀行折衝の重責を担う立場になるまで紆余曲折がありました。(文中敬称略)
銀行折衝が出来るCFOを探した
2008年2月下旬、若手事業家”田中修治”がメガネ小売チェーン”オンデーズ”を買収。
M&Aアドバイザーだったコンサル(コンサルティング)会社のC社長が銀行折衝を行うCFOの役目を担う話になっていました。
しかし、オンデーズでの打ち合わせから帰ってきたC社長は、突然「自分は引き受けない」と言い出したのです。
「田中たちの能天気さに不安を感じたので自分は降りる。代わりに奥野さんがヘルプで行って」
そんな訳で、C社長に代わって私がオンデーズをサポートすることになりました。
「こんな会社、よく買ったね・・・」
3月の初旬に私は、田中修治と一緒に次のCFO候補「B氏」を訪ねました。
以前にベンチャー企業をIPOさせて大金を得て、現在は悠々自適なB氏が、趣味で経営する小料理屋でした。
こじんまりとした堀りごたつ席。渡された財務資料をパラリパラリとめくっていたB氏は、眉をひそめて言いました。
「しかしまあ、よく買ったよね。こんな会社・・・」
「はあ・・・」
おっしゃることは至極ごもっともです。そこを何とか協力してほしいと OWNDAYS の可能性を熱弁する田中修治に、B氏は「考える」と言いました。
来社したB氏の目的は・・・?
2008年3月7日、B氏がオンデーズの本社に来社しました。南池袋の雑居ビル「ぬかりやビル」です。
(田中修治へ経営権を譲った)前経営陣のK専務が同席。K専務も今後の銀行交渉を担う人物を気にしていたのです。
B氏は私たちに向かって言いました。
「自分が銀行交渉を引き受けるのは無理だけど、この借入は何とかしなきゃいかんよね・・・」
債務整理はとにかくNG!?
ボロボロな財務内容を見て、B氏はイロイロと考えてくれたのでしょう。こう切り出してきました。
「この借入が重い足かせだね。保証も入っていないのだから、手っ取り早く債務整理を進めるべき。飛ばしとか民事再生とか、そういうのが得意な人を紹介しますよ」
”債務整理”に前経営陣の激しい抵抗
すると(前経営陣の)K専務の顔色が変わりました。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください! 話が違います!! 約束が違います!!」
血相を変えたK専務が話に割って入ってきます。
実はオンデーズの経営を田中修治に譲り渡した会社のビジネスは、金融機関を主要な顧客としていたのでした。
銀行の信用を失ったりしたらビジネスモデルの崩壊へと繋がる死活問題なのです。
K専務は必死の形相で訴えます。
「田中社長は約束しています」
実はオンデーズの買収にはコンペティターがいました。資金力のある超有名な外資系企業です。
その競争相手を差し置き、後継者として田中修治が選ばれたのは、結論を出すスピードの速さとともに『銀行には絶対に迷惑をかけないこと』という無茶な要求を飲んだことも大きな要因だったのです。
奥野は前職では債務整理の専門家
『債務整理に詳しい人を紹介する』と提案したB氏に私は改めて状況を説明しました。
「K専務の言うとおり、債務整理の様な銀行にロスが出る手段は取れないのです。それに、私は前職で債務整理を専門としていたので、その類いの方法はよく知っています」
そして私はK専務に向かって尋ねました。
「返済リスケ程度はOKですよね?」
画期的な再生にチャレンジ!!
「返済条件の変更は仕方ないと思います」
と、渋々ながら答えたK専務の言葉を聞いたB氏は、
「分かりました。奥野さん大変だろうけど頑張って」
とそれ以上は踏み込んできませんでした。
(いや・・・自分は週3日のヘルプに過ぎないのだけど・・・田中も無茶な約束をしたもんだ・・・)
私はそう心の中でつぶやいていました。
奥野が助っ人で銀行交渉の最前線に
B氏との面談の4日後、コンサル会社のC社長とオンデーズの間でサポートの条件のすり合わせが行われました。
- 月額●●万円で原則週3回、奥野をオンデーズへ派遣する
- 奥野は財務部長のような肩書きで銀行折衝等の前面に出る
- 奥野は同時に(プロパー社員)●●の育成に努める
2月までの財務部長は(前経営会社からの出向につき)もう撤収してしまうので「もう我関せず」です。
つまり3月以降の指揮を執る財務部長の後任が決まらず、為す術を知らないスタッフが2名残された状態でした。
いわば「親に見捨てられた雛鳥」みたいなもので、いきなり資金繰り破綻のピンチに陥っていたのでした。
適当にやり過ごすことなんて出来るか!!
オンデーズのサポート条件が固まった2日後。
私はコンサル会社に来ていた学生インターンとの懇親会場で、上機嫌になったC社長から耳を疑うような言葉をかけられました。
「とにかくオンデーズには力を入れることなく、適当にやっておいてほしい。たかが眼鏡屋のちっぽけなマーケット。我々はもっとビッグになる」
買収前の田中との決め事を反故にして、代役を送り込んでおいて、挙句の果てには「テキトーにやっておけ」!?
(えっ 何を言ってるの・・・もはやアンビリバボー)
もう今月末から資金が不足することが明らかなのに「テキトーに」できるわけがありません。
駅のホームから子どもが線路に転落して、遠くに電車が迫りくるのが見える・・・そんな状況が目の前で起きたら、大人は助けるためにとっさに線路へ飛び降りるはず。
それで亡くなった方もおられましたが・・・OWNDAYSに飛び込んだのはそんな心理状態だったと思います。
私はコンサル会社のC社長に「退職してオンデーズへ行く」と伝えました。C社長は「面白そうだからって簡単に移られたら困るよ」と言いますヽ(´o`;
カチンときた私が「そんな理由じゃない。あなたが信用できなくなったからだ」と言い放ったという小説のエピソードは事実です。
本腰入れて画期的な再生にチャレンジ!!
世間では「年商が20億円に対して借入が14億円」がクローズアップされます。しかし借入の金額そのものは重要な問題ではありません。
慢性的な赤字体質と売上および士気の低下による負のスパイラル。さらに実態は10億円近い債務超過(純資産マイナス)のインパクトが大きいのです。
そんなゾンビ未満の会社が、銀行の支援も得られず(債務整理等の)外科的治療も行わずに蘇った事例なんか、私の知る限りではありません。
しかしここで私の”天の邪鬼”な性格がプラスに作用したのです。
(前例が無いなら作ってやろう!)
(どうせなら銀行員時代に疑問を感じていた「債務超過=死に体企業→オフバランス処理」を強要した”当局ルール”へのアンチテーゼにしてやる!!)
そうやって闘志に火がついたのでした。
(その1)破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 【裏話】伊集院事件
(その2)破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 【裏話】CFOを探せ