「ルイ・ヴィトンやお酒のヘネシーは聞いたことあるけど”LVMH”って何?」という人も多いです。LVMHは「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」という70ものブランド企業で構成するグループで、最高経営責任者のベルナール・アルノー(Bernard Arnault)はForbes長者番付で第4位(2018年)の大富豪なのです。高級ブランド以外の投資活動についても簡潔にまとめてみました。(文中敬称略)
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)とは
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の概要とベルナール・アルノー(Bernard Arnault)がLVMHを支配することになった経緯を整理してみましょう。
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の共同創業者の訃報
ネットニュースで LVMHの共同創業者が死去 元モエ ヘネシー社長 の訃報記事を目にしました。
LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)共同創業者で元経営会議議長のアラン・シュバリエ(Alain Chevalier)氏が11月1日に87歳で死去した。
WWD 2018/11/7 より引用
87歳で亡くなったアラン・シュバリエ(Alain Chevalier)は、1987年のLVMH誕生時~すなわちルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)とモエ ヘネシー(MOET HENNESSY)が合併した時のモエ ヘネシーの社長だった人物です。
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)はフランス拠点のコングロマリット
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、フランス・パリを本拠地とするコングロマリット(=多種の業種・企業を統合してできた巨大企業集団のこと)です。
LVMHは6つの事業セクターに分かれ、(2018年11月8日現在)70のブランド企業群により構成されています。
- ワイン&スピリッツ
- ファッション & レザーグッズ
- パフューム & コスメティクス
- ウォッチ & ジュエリー
- セレクティブ・リテーリング
- その他の活動
下表はLVMHのウェブサイトから抽出した「ブランド企業群の一覧」(LVMHのウェブサイトでは英語でHOUSE、フランス語と日本語ではメゾンと呼んでいます)
きっと「えっ? このブランドもLVMHだったの?」というブランド名がいくつも見つかると思います。
ワイン&スピリッツ |
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ファッション & レザーグッズ | |
パフューム & コスメティクス | |
ウォッチ & ジュエリー | |
セレクティブ・リテーリング | |
その他の活動 |
LVMHの誕生とグループ形成
LVMHは、前述のとおり、1987年にルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)とモエ ヘネシー(MOET HENNESSY)が合併して誕生しました。
合併前の両社の経営者と合併後LVMHでの役職は下表のとおりです。
名前 | 合併前の役職 | LVMHの役職 |
アンリ・ラカミエ(Henry Racamier) | ルイ・ヴィトン社長 | 社長 |
アラン・シュバリエ(Alain Chevalier) | モエ ヘネシー社長 | 経営会議議長 |
ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)の資本参加とLVMH買収
現在LVMHの最高経営責任者であるベルナール・アルノーは、LVMHの誕生時にはクリスチャン・ディオール(Christian Dior)を経営していました。
WWDの記事によれば、ベルナール・アルノーがLVMHを支配するに至った経緯は次のとおりです。
LVMHは誕生の翌年(1988年)傘下ブランド企業を他社に買収されるリスクに直面した |
LVMHのアンリ・ラカミエ社長が(フランス実業界の大物でもあった)ベルナール・アルノーに支援を要請した |
ベルナール・アルノーはLVMHの少数株主となった |
アンリ・ラカミエ社長がベルナール・アルノーとの取引条件を変更した |
ベルナール・アルノーはLVMHに敵対的買収(=合意なく強行的に株式を買い集める)を仕掛けた |
1989年にベルナール・アルノーがLVMHの買収に成功。前身2社の元社長は退任。アルノーがトップに就任 |
LVMHの会長兼最高経営責任者に就いたベルナール・アルノーは、積極的なブランド買収を推進して「ブランド帝国」と呼ばれる企業グループを築き上げました。
ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)を知る
富裕層向けの不動産業を経営していたベルナール・ジーン・エティエンヌ・アルノー(Bernard Jean Étienne Arnault ー1949年3月5日生まれ)は、1984年にクリスチャン・ディオール(Christian Dior)を買収します。
そしてデザイナーの思い切った刷新等の施策を次々と繰り出して”Dior”ブランドを再興させました。
ベルナール・アルノーの勢いは止まらず、1989年のLVMH買収後も、高級ブランド企業を次々と買収して巨大なグループを形成していったのです。
多くの高級ファッションブランドを手中に収めていることから「フランス・ファッション界の帝王」「ファッションの法王」などの異名を持つ
Forbes(フォーブス)の2018年世界長者番付では第4位に入る大富豪でもあります。
グループ・アルノー(Groupe Arnault SAS)
世界屈指の資産家であるベルナール・アルノーは、「グループ・アルノー」(1978年設立)の代表者として、自己資金による企業投資も行っています。
(LVMHウェブサイトのベルナール・アルノーの紹介では、グループ・アルノーは「アルノー一族の持株会社」と書かれています)
ブルームバーグ(Bloomberg)に「グループ・アルノーの企業概要」が掲載されているので引用しましょう。
Groupe Arnault SAS is a principal investment firm. The firm seeks to hold stake in companies and is owned and controlled by Mr. Bernard Arnault. Groupe Arnault SAS was founded in 1978 and is based in Paris, France.
Bloomberg:Company Overview of Groupe Arnault SAS より引用
グループ・アルノー(単純型)株式会社はプリンシパル・インベストメント会社(著者注)。ベルナール・アルノー氏にコントロールされて投資先企業を探している。グループ・アルノーは1978年に設立され、フランスのパリに拠点を置く。(著者注:プリンシパル・インベストメントとは、投資家のお金ではなく自己資金で行う投資)
ブルームバーグ:グループ・アルノー(単純型)株式会社の概要 より引用
2017年7月のWWD記事 アルノー一族、クリスチャン ディオール株を買い増し に出てくる「セミラミス(SEMYRHAMIS)」(2017年7月にクリスチャン・ディオールの株式を買い増しした)も、グループ・アルノー傘下のプライベート・エクイティ投資企業(=未上場株式に投資する)です。
Lキャタルトン(L Catterton)=世界最大の”コンシューマー業界”投資PEファンド
LVMHは、グループのプライベート・エクイティ(PE)投資企業をアメリカのPEファンド「キャタルトン」と合併。
「キャタルトン / LVMH / グループ・アルノー」の提携によって、コンシューマー(消費財)業界に特化する世界最大のPEファンドが2016年に発足しました。
LVMHグループのPE投資会社:(旧)Lキャピタル(L Capital)
実は、LVMHはグループ・アルノーとともに、高級ブランド以外の企業への投資も積極的に行っています。2001年にはプライベート・エクイティ投資会社”Lキャピタル(L Capital)”を設立しました。
2009年には、アジア地域にターゲットを絞った”Lキャピタル・アジア(L Capital Asia)”を設立。投資例としては、シンガポール発の女性靴ブランド「チャールズアンドキース(Charles & Keith)」に投資して中国での店舗拡大に成功しています。
Lキャタルトン(L Catterton)設立:キャタルトン(米国)とLキャピタルが合併
そして2016年、LVMHグループの投資会社「Lキャピタル」は、コンシューマー(消費財)業界への投資に特化したアメリカの投資会社「キャタルトン(Catterton)」と合併します。
「キャタルトン / LVMH / グループ・アルノー」の3社が提携した「Lキャタルトン(L Catterton)」が発足したのです。
そして「Lキャタルトン」は、コンシューマー業界に特化した投資会社としては世界最大規模のプライベート・エクイティ(PE)投資会社となりました。
プライベート・エクイティ・ファンドの性格分け
Lキャタルトンのファンドの性格は「成長企業・成長が見込まれる企業に投資する」”グロースファンド”に位置づけられます。
ちなみに上記の”Lキャタルトン・アジア”のホームページに(投資先例として)真っ先に登場する「GENTLE MONSTER」は韓国発で人気沸騰中のサングラスショップです。
そんなLキャタルトンアジアは、2017年春に日本への進出を公表しています。代表のインタビュー記事では「日本はグッドブランドの宝庫」とも。
「我々は金儲け主義のプライヴェート・エクイティではありません。簡単にバイアウトしたりエグジットすることが目標ではないのです」と話し始めた。 「我々が投資するのは、特定の専門分野において卓越したクオリティやユニークネス、歴史、文化がありながらも、まだ世界的に見出されていない『グッドブランド』です。 こうしたブランドを発掘し、我々の経験値や知見を注入しながらよりよいブランディングを推進し、世界との橋渡し役を演じることが、我々の真の価値だと考えています」
GINZA SIX(ギンザシックス)の運営会社にも出資
ちなみに日本では2017年4月、松屋銀座店跡地にオープンしたGINZA SIX(ギンザシックス)の運営を行う「GINZA SIX リテールマネジメント」には、Lキャタルトンの不動産投資部門である「Lキャタルトン リアルエステート」も出資しています。
Lキャタルトンアジアの日本第1号案件が”破天荒フェニックス”オンデーズ
そんなLキャタルトンアジアが日本で投資した第1号案件が小説『破天荒フェニックス』の舞台となったOWNDAYS(オンデーズ)なのであります。
シンガポールに拠点を構えるLキャタルトンアジアが、同地を足がかりに世界進出を開始して成長を遂げたOWNDAYSに注目したのは自然な流れでした。