銀行が冷酷無慈悲となった理由。最前線にいた私が書きます。バブル崩壊~”失われた20年”の半ばで社会問題化した、銀行による過酷な融資の貸し渋りや貸しはがし。なぜ常軌を逸した行動に走ったのか、わかりやすく説明しましょう。原因を知っておけば、今後また金融機関が同様な行動を起こす可能性は低く、過度に銀行を恐れる必要がないことがわかります。
破綻懸念先を狙い撃つ、悪魔の通達『2年3年ルール』
なぜメガバンクがあれほどしゃにむに貸しはがしに走ったのか?直接の銃爪は、2001年(平成13年)4月の『緊急経済対策』です。破綻(はたん)懸念先を地獄へ突き落とした、悪魔の政府通達と言えましょう。
第2章 具体的施策
1.金融再生と産業再生
(1)金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的解決
不良債権の抜本的なオフバランス化
1)原則
(ア)主要行は、以下の原則に基づき、オフバランス化(債権放棄などにより貸借対照表上の不良債権を落とすことをいう。)を進める。
a.破綻懸念先以下の債権に区分されるに至った債権について、原則として3営業年度以内にオフバランス化につながる措置を講ずる。
b.既に、破綻懸念先以下の債権に区分されているものについては、原則として2営業年度以内にオフバランス化につながる措置を講ずる。
c.なお、オフバランス化に当っては、以下の点に十分留意する。
オフバランス化の判断は、各行の経営に与える各種リスク、地域経済に与える影響等も含め経済合理性に基づき行うものとする。
太字にした部分を平易に書き直します。
・都市銀行は、次の期間内に不良債権を処理しなさい。
- 新しく「破綻懸念先以下」になったものは3年(度)以内
- 既に「破綻懸念先以下」のものは2年(度)以内
こういう内容です。銀行内では『2年3年ルール』と呼んでいました。
ルールの要点は、「まだ破綻していない貸出先であっても、破綻懸念先になった貸出はゼロにしなさい。」ということです。
オフバランス化(債権放棄などにより貸借対照表上の不良債権を落とすことをいう。)
という書き方はしてあります。しかし、債権放棄などというものは簡単には出来ません。ニュースに出てくるような事例は、その破綻が社会・経済に与える影響が深刻であろう大企業に限ります。「簡単には出来ない」と言うより「99%検討もされない」と言ったほうが適切です。
つまり、残る手段としては2つしかありません。
「債権売却」か 「強引に回収=貸しはがし」
債権売却を行えばロス(全額回収できずに損失が確定する)が発生します。融資残高を満額ということは通常ありません。よって売却処理を行うための相応の理由が必要です。
- 本当に債務者からは回収が出来ないのか?
- 保証人からは回収できないのか?
「回収に要する時間コスト及び人的コスト」と「売却処理すること」を比較して、売却の経済合理性を明らかにする必要があります。当然ながら手続き完了までにも時間がかかります。
よって、手っ取り早い『半強制的に回収』する手段が多用されたのです。
中小企業も容赦なし。金融機関の健全性が優先
この緊急経済対策の文章は続きます。
(イ)債務者が中小企業の場合であっても、各企業の実態等も十分に踏まえつつ、企業の再建及びそれに伴う不良債権のオフバランス化に取り組むことを要請する。
(ウ)以上の措置に伴い、地域金融機関を含む金融機関の不良債権のオフバランス化が進み、経営の健全性が確保され、次代を担う新規産業に対する円滑な資金供給等その社会的使命が一層果たされるとともに、経済の構造改革に資することが期待される。
(エ)なお、以上の措置は本年4月1日に開始した営業年度より実施する。
(ア)が主要行=都市銀行に対するルールなので、(イ)は主要行以外の地方銀行等も含む指針となります。ここではっきり書かれています。「債務者が中小企業であっても」「不良債権のオフバランス化に取り組むことを要請する。」
(ア)は都市銀行向けのルール。(イ)で言わんとしているところは、「地方銀行だって例外じゃないんだよ。都市銀行ほどの厳密なルールは設定しないけれども、オフバランス化に取り組みなさいね。」です。「要請」されちゃっているのです。
この『緊急経済対策』によって、全国で貸し渋り・貸しはがしの嵐が吹き荒れます。
慌てた金融庁は、2002年(平成14年)6月に『金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕』を発表し、
- 「金融検査マニュアル」の機械的・画一的適用の防止
- 「貸し渋り」や「貸し剥がし」の防止
をアピールしたのでした。
これに至るまでの経緯は、こちらにチャート図があります。
「破綻懸念先以下」の区分とは・・・重い十字架
上記の政府の通達で「オフバランス化につながる措置を講ずる」対象として書かれているのが『破綻懸念先以下の債権に区分される』融資先です。”破綻懸念先以下”というのは何なのか、また次回に詳しく説明しましょう。