「食い逃げ」って現実にあるのです。私も学生時代の居酒屋のバイト先で「やられた」ことがあります。さらに「食い逃げが罪に問われない」という事実を知って衝撃を受けました。食い逃げ犯の法律解釈を平易に書いてみました。(文中敬称略)
好景気の時代に遭遇した「食い逃げ」事件
大学1年の夏休み、私が初めてアルバイトをしたのが池袋の居酒屋「D」でした。
当時の居酒屋「D」は、池袋東口のサンシャイン通りに入る交差点の近くにある雑居ビルの地下にありました。
居酒屋のお店の作りは、中心部に厨房があってかなり細長く、ホールスタッフが常時5~6名は歩き回っているような規模の広さでした。
あまり見通しが良くない店内レイアウトでもあったために狙われたのかもしれません。
ある日「食い逃げ」されました。
時は1985年、バブル景気の直前のそんな時代に「食い逃げ」なんて・・・私は漫画やドラマの世界の中の出来事だと思っていたのでショックでした。
食い逃げ犯は若い女性二人組:「やまびこ挨拶」なく姿が消えたので気がついた
食い逃げ犯人は(たぶん20歳代半ばの)若い女性の二人組で、彼女たちは二人用テーブルに向かい合って飲み食いしていました。
そして、ふと気がつくと二人とも消えていました。
バイト先の居酒屋「D」ではお客様への声掛けを徹底していました。
お客様がレジで勘定を済ませれば必ず「ありがとうございました。またお越しくださいませ-!」のやまびこ挨拶が店内中に響き渡ります。
しかしテーブル席に座っていた女性二人を見た時間帯からは、挨拶の「やまびこ」を聞いていません。
私は不審に思って、彼女たちのテーブルをよく調べました。
すると、伝票のクリップボードがテーブルの脇(壁との隙間)に隠されていたのです。
店長が食い逃げ犯を捕まえに行く
私はすぐさま店長を呼んで報告しました。
「店長ー! 食い逃げですー!!」
「なにー? 捕まえてくる!」
私の報告を聞くやいなや、店長は店を飛び出して地上へ向かう階段を駆け上がっていきました。
しかし、まもなく店長は「だめだー。見つからなかった・・・」と悔しそうに首を振りながら店に戻ってきました。
飲食代金は5千円にも満たない金額です。
万引きと同じようにスリルを楽しんでいるのでしょうか?
食い逃げは無罪になってしまうの?
実際に自分が遭遇した「食い逃げ事件」。
しかし、かなり後になってから「食い逃げしても罪に問われない」という事実を知ってさらに衝撃を受けました。
「利益窃盗」という行為
お代を払わずに黙って逃げる「食い逃げ」行為は「利益窃盗」に該当するため罪に問えないということです。
他人から何かを「奪い取る」場合、その対象は大きく2種類に分けられます。
- 財物(=形のあるものと電気)
- 経済的利益(=サービス)
「奪い取る」方法は4種類(窃盗 / 強盗 / 詐欺 / 恐喝)に分けられ、その対象が定められています。
↓↓↓
行為 | 1.財物 | 2.経済的利益 |
窃盗 | ○ | × |
強盗 | ○ | ○ |
詐欺 | ○ | ○ |
恐喝 | ○ | ○ |
上表を見て分かるとおり「窃盗」だけは経済的利益(=サービス)が該当しません。
この(表の×)部分が「利益窃盗」と呼ばれる行為になります。
“店員の目を盗んで逃げる”食い逃げは「利益窃盗」にあたる
食い逃げ犯が店員を脅したり暴力を振るったりして代金を払わない場合は、強盗か恐喝となるため犯罪となります。
「店員に気付かれないように代金を払わずに逃げ去った」場合、詐欺を問うには「注文時から代金を払うつもりがなかった」ということを立証する必要があります。
この立証はまず困難です。つまり事実上このケースは「利益窃盗」となるのです。
行為 | 処罰できるか | 処罰できるケース |
窃盗 | × | (利益窃盗につき処分できない) |
強盗 | ○ | 店員を脅す、暴力を振るう |
詐欺 | ▲ | 注文時から支払うつもりがなかった |
恐喝 | ○ | 店員を脅す、暴力を振るう |
食い逃げが無罪って理不尽じゃないか?
「食い逃げ」だけにフォーカスすると理不尽なようにも感じます。
しかし、もし刑法と改正して利益窃盗を処罰できるようにした場合には、処罰の対象範囲が広がりすぎて混乱するという意見もあります。
そこで刑法を改正して利益窃盗を処罰することにするとどうなるか。
・当初は返すつもりで金を借りたが、後に返せなくなって逃げ回っている。
・立ち読みお断りの本屋で立ち読みをした。
・NHKの料金の直近の集金がまだ済んでいないことに気付いていたが、急に引っ越しが決まったので払わないまま黙って出て行った。
・スタジアムの近くの高層マンションに住んでいる人が、自宅のベランダから勝手にスタジアムの競技を観戦した。
・公共の場でたまたま隣にいた人がWi-Fiにパスワードを設定していなかったのでこれを使った。このような行為がことごとく利益窃盗として処罰される可能性がある。これでは処罰範囲が広がりすぎて妥当とはいえないだろう。
弁護士三浦義隆のブログ より引用
かなり些細なことでも警察にしょっ引かれる可能性のある、ちょっと恐い世の中になってしまう恐れがあるのでしたヽ(´o`;