異色の漫画家「つげ義春」の代表作『ねじ式』の有名なシーン。主人公が医者を探し求めて眼科(目玉の看板)ばかりの道を歩く・・・この風景の元ネタと言われる台南(台湾)の写真がインターネットで拡散されていますが、実際に参考にしたのは別の写真家の作品なのです。(文中敬称略)
決定版”つげ義春の研究本”『Spectator つげ義春』
『Spectator つげ義春』(幻冬舎)というムック本を入手しました。
つげ義春の研究本として貴重な資料やインタビューが満載です。
この『Spectator つげ義春』の中で、つげ義春の代表作『ねじ式』に関して、インターネット上では定説となっている情報の誤りが指摘されています。
ねじ式「目医者ばかり」の風景の元ネタは「王双全」の写真ではない
つげ義春の代表作『ねじ式』に有名なシーンがあります。
医者を探し回る主人公が「ちくしょう 目医者ばかりではないか」とぼやく場面、周辺は「目」の看板がたくさんあります。
このシーンの「元ネタの風景が台湾にある」としてネットでは様々な情報と写真が飛び交っています。
中には「写真はPhotoshopで加工したフェイク」と決めつけている投稿もあります。
元ネタ写真として最も取り上げられているのは、下の写真の左側の写真です。
台湾の写真家「王双全」の作品とされています。
眼 - 王双全(1920-1978) - 數位島嶼
臺南市某眼科懸掛大小眼睛看版,吸引路人的眼睛。(拍攝時間:1962)
しかし、マンガと並べて比べてみると看板の形や位置が違っていることが分かります。
元ネタは「朱逸文」の『フォトアート』1963年5月号に掲載された写真
つげ義春の研究本『Spectator』は、ネット上の「王双全の写真」説を否定しています。
下の写真の左側は「朱逸文」という人の写真で『フォトアート』1963年5月号掲載のものです。
マンガと同じアングルかつ同じ種類の看板であることが明白です。
王双全と朱逸文はふたりとも台湾の写真家なので、地元(台南)の風景だと思われます。
インターネット上で拡散されている情報は鵜呑みにしない方が良いひとつの事例です。