きっと普通じゃない、銀行の人事異動。転勤の周期は基本2~3年で、4年超えると「リスク」認定!? 1週間以内に引継ぎを完了させろ!? 何じゃそれ。ヽ(´o`; 不正の隠蔽を防ぐための仕組みが仇となり、殺人事件の悲劇も起きた。(文中敬称略)
銀行の転勤の周期は2~3年?「5年は超えない」不文律!?
かつての都市銀行(現在メガバンク)では、通常は2~3年で転勤になるパターンが多かったです。
不文律で『5年を超えてはならない』と言われていました。
また、同じ部署で在任期間が4年を超えると、金融庁から『リスク』としてチェックされるという話も、銀行本部のリスク管理の部署にいる知人から聞いたことがあります。
私は新宿西口支店に4年9ヶ月在籍していました。5年ルールにギリギリですね・・・
ただしその期間中には、担当する主業務が変化していました。
融資営業(含む新規開拓)
↓
業務改善PJ
↓
融資
と、同じ業務に携わった期間は各々2年を超えていません。
なお(私が財務経理の責任者をしていた)OWNDAYSの某地銀の担当者は、なんと7年以上同じ店に在籍していました。そんな例外もあります。
人事異動の時期は銀行によって異なる
人事異動が発令される時期は金融機関によって様々です。私が知っている範囲のパターンを挙げてみれば、
- 年2回(例えば4月と10月)に大異動があるだけ
- ほぼ毎月のように異動発令がある
- ほとんど不定期
役員クラスの異動が多いのは(定時株主総会のある)6月辺りに集中しているのは各社で共通しています。
ちなみに私がいた富士銀行(みずほ銀行の前身)では「ほぼ毎月のように辞令発令があり、4月と10月の異動が比較的大きい」というパターンでした。
銀行の異動時の引継ぎ期間は極端に短い「原則1週間で新旧完了」!?
金融機関の異動でとりわけ特殊だと思われるのは「発令を受けたら速やかに新部署に移動する」ルールだと思います。
例えば、かつての富士銀行でのルールは、
- 転居を伴わない場合は「1週間以内」
- 転居を伴う場合は「10日以内」
に、赴任して引継ぎを完了させなくてはならないという厳しいものでした。
現任地と新任地の両方の引継ぎを1週間で完了させる
大抵の場合、新しく赴任する場所には「前任者」がいて自分と引継ぎを行う。その「前任者」も次の新任地で引継ぎをする必要があります。
当然ながら「自分」も後任に引継ぎを行います。
この一連の引継ぎを1週間以内で完了させろ・・・ということなのです。
つまり「3ヶ所3人」の引継ぎを1週間で完了させるスケジュールを組むわけで、調整を行う副支店長は一苦労です。
引越しが必要になる場合は、ほんの少し猶予を与えられます。しかしもうバタバタが避けられません。
東京を長期間ベースとしていた人が(県に支店が一つしかない)地方へ赴任した場合だと、2~3年も経過すれば「そろそろ転勤で引越しだな」ということが分かります。
しかし大半の通常の転勤発令は「いきなり」です。
個人の家庭の事情は考慮されるのか?
例えば「家族の介護をする必要があるため転居はできない」等、特殊な事情があれば別でしょう。
しかし一般的な個人の家庭の事情を銀行側に考慮してもらうことは、あまり期待しない方が良いです。
なお、海外へ赴任する場合など特殊な場合には、さすがに事前の内示があります。前もって準備することが多々ありますので。
『家を買うと転勤で引越しさせられる?』
そんなうわさ話を見聞きすることもありました。
しかし「家を買ったばかりの行員を狙い撃ちする」・・・そんなことにプライオリティを置いても銀行側にメリットなど無いでしょう。
ちょっとした偶然が場合によっては悲劇にもなるので、そんな話が独り歩きするのかもしれません。
身近であった新居購入直後の悲劇
身近でもこんな事例がありました。私の同期は、結婚して戸建ての新居を構えて数ヶ月にニューヨークへ転勤となりました。
「オレの新居を借りて住まない?」
私はNYに行く彼から打診されました。しかし私は、
「どうせすぐに戻ってくるのだろ? また突然引越しするのも面倒だから遠慮しとくよ」
と彼の打診を辞退してしまいました。
するとその私の同期は、ニューヨークの拠点に数年いた後には、何とロンドンへ異動となりました。
結局10年近くも日本の新居に住むことなく、彼のマイホームは長い間、見知らぬ人の「借上げ社宅」となってしまったのです。
(そんななら借りときゃ良かった!)
正直そんな感じです。どこにどう異動するのかなんて、特に若いうちには想像することはできません。
生後2ヶ月の赤子を連れて大雪の新潟へ・・・
私は、子どもが生まれて2ヶ月も経たないうちに、真冬の新潟へ異動辞令を出されたことがあります。
赤ん坊を抱えていたのに加えて、上の子は幼稚園への入園が確定していたため、土壇場で入園キャンセルを余儀なくされました。(幼稚園側に事情を話したところ、入園料は返金してもらえました)
課長へ昇格するタイミングだったので「栄転したのだから文句言うな!」という人事部側の言い分もありましょう。
その新潟支店の課長職というのが、私にとって有利なポジションであったのも事実です。
- 初任者が代々就いている「比較的与し易い(くみしやすい)」ポジション
- 私に目をかけてくれていた現任店の前支店長の姪っ子が直属の部下
- 私の仲人さん(元支店長)の元部下が、当時の新潟支店長
と、全くアウェー感がない恵まれた環境でした。
しかし「家庭の事情」よりも「業務の事情」が優先されているわけです。
引越し繁忙期にいきなり転居異動の辞令が出ると一苦労
転居を伴う異動の場合、その時期が引越しシーズンに重なると最悪です。
何せ、超繁忙期にいきなり数日後の引越しを依頼するわけですから。
4月の初めに大阪から東京へ転勤となったときは、電話した引越し業者は「今、めっちゃくちゃ大変なんですよねー」と露骨に嫌そうな態度で応対してきました。
銀行の生協のあっせんで電話したのにもかかわらずです。カチンときた私が、
「あー、ご迷惑みたいなので、もう結構です!」
と、電話を切った様子はご想像に難くないでしょう。
結局、自分で調べて大手Sに依頼しました。
大手Sはとても満足できるサービスでした、次に東京から新潟へ引越しする際にも、またそのSを指名しました。
銀行が短期間でバタバタと転勤させる目的は”不正発見”
銀行の人事異動の引継ぎ期間は、一般の企業から見たら「あまりにも短すぎ」と感じるでしょう。
バタバタと引継ぎを行うために、漏れが起きたり後任者がキチンと理解しなかったりして、取引先に大迷惑をかけることもあります。
それでも銀行はなぜ短期間の引継ぎにこだわるのか?
あらかた想像はつくと思います。不正の防止・・・というより「不正を浮き彫りにする」ためです。
極端に短い引継ぎ期間で不正の隠ぺいを妨ぐ
銀行は多額の「お金」を扱う商売です。当然ながら、不正を抑止するためのルールは厳格に定められています。
それでも誘惑に負けてしまう銀行員も存在します。極端に短い引継ぎ期間の目的は「不正の抑止または発見」です。
異動が決まった人物が何か悪さをしていた場合に、隠ぺいする時間を奪うためです。
引継ぎの期間中に、後任者や上司が「何か変だ」と感じることもあるでしょう。
無事に引継ぎを終えたとしても、後日になってから隠ぺいしきれなかった不備が発見されることもあり得ます。
不正の隠蔽を防ぐ目的が、さらなる悲劇を生んだ!?
1998年7月、富士銀行の埼玉県内の某支店で悲しい事件が起きました。
不正を行っていた行員Aが、異動の発令により発覚を恐れて、お客様の老夫婦を殺害してしまったのです。
富士銀行春日部支店事件
行員Aは『浮貸し(うきがし)』を行っていました。
浮貸しとは(平易な言葉で説明すると)銀行員がその立場を利用して、銀行の融資手続を取らずにお金を貸したりすること。
すべての行員が研修で必ず教わり、厳しく禁止される「不正行為」です。
この事件の場合、行員Aが、老夫婦から「定期預金として」預かったお金を、そのまま他の会社へ融資してしまったのです。
Xは強盗殺人罪で起訴された。公判でXは殺人を認めたが強盗は否認した。
一審の浦和地方裁判所は検察の死刑求刑に対し「無抵抗の老夫婦を殺害した残虐非道な犯行だが、富士銀行が遺族に相当高額の金品を支払う調停が成立している」として、Xに無期懲役判決を言い渡した。
検察側は死刑求刑が受け入れられなかったことを不服として控訴したが、二審の東京高等裁判所は2000年12月にこれを棄却、検察が上告を行わなかったためXの無期懲役が確定した。
銀行員として「全く」理解できない行動でした。
また犯人の行員Aが私と同じ1989年(平成元年)入行の同期でもあったため、たいへんショックを受けました。
私は行員Aとは面識はありません、しかし同世代で、ほぼ同じ研修プログラムを受けてきたはずなのに、何でこのような不正に走ってしまうのか・・・今もって答えが見つかりません。
自粛によりすべての行事が消滅した
この事件を受けて、富士銀行は一斉に「自粛」モードに入りました。当然ですね。
それまで行われていた、運動会、野球大会、バレーボール大会といったレクリエーションはすべて中止となりました。
この事件の後すぐに金融システム危機が続いたので、結局これらの行事は事実上廃止となりました、一部に復活した営業店があったか否かは定かでありません。
休暇の取得も不正抑止策のひとつ
異動の引継ぎ期間中に発生した痛ましい事件を受け、不正抑制の手段として『長期休暇の取得』の義務付けが厳しくなりました。
3日連休や1週間連休といった制度休暇を必ず取得させて、その間に「おかしなことをやっていないか」チェックするのです。
追記:金融庁が銀行の定期異動ルールを廃止!? 2019年秋にも
【追記 2019年8月19日】
数年間でコロコロ代わる銀行の担当者の異動サイクルにメスが入りました。
2019年8月15日のニュースでは、2019年秋にも定期異動ルールを撤廃するということです。
前述した「在籍4年を超えると金融庁がリスク認定」といった縛りがなくなるのでしょうね。
金融庁が不正や癒着の防止のため、大手銀行や地方銀行に求めてきた営業担当者の定期的な人事異動を撤廃することが15日、分かった。
今秋にも該当する監督指針を見直す方針。
中小企業の円滑な事業承継や個人顧客の資産形成をサポートするには、営業担当者との長期的な信頼関係の構築が不可欠と判断した。
担当者による不正や癒着防止に向け、銀行は抜き打ちの内部監査といった対策の徹底を図る。
共同通信社 2019年8月15日記事より引用