2006年に39歳でメガバンクを飛び出しました。転職した先は「金融と不動産を軸とした投資銀行」を標榜したリサ・パートナーズ。結果としてオンデーズ再生の武器を磨いた新天地は、さながらドラマ『ハゲタカ』のような世界でした。(文中敬称略)
みずほ銀行から日系の投資銀行へ転職
前回(第2回) 倍返しは後味悪い!?みずほ銀行を飛び出した背景を説明します では、3つの銀行が合併して誕生したみずほ銀行と価値観が合わなくなり、お別れ(退職)した経緯を書きました。
そして2006年2月、株式会社リサ・パートナーズ(以下「RISA」)へ転職したのです。
私が入社した当時のRISAは、溜池山王駅の近くの赤坂インターシティにありました。
”大学は四ツ谷→銀行INは市ヶ谷→銀行OUTは赤坂→転職は溜池”と、なんだかんだと結局は”外堀通り”沿いに戻ってきてしまう・・・何か不思議な縁があるのでしょうか?(笑)
RISA 転職は地方金融機関への罪滅ぼし?
当時のRISAは「金融と不動産を軸とした投資銀行」をキャッチフレーズとした日系の投資会社でした。
多数の地方金融機関と「地域企業再生ファンド」を立ち上げ、地域企業再生の担い手として急成長していたのです。
実は私は、新潟で「メイン寄せ」を行っていた時に、地方金融機関の責任と覚悟を痛いほど感じて申し訳なく思っていました。
自分としては「地方金融機関に対し”罪滅ぼし”をしたい」という気持ちもあったのです。
RISA での主な3つの業務
RISAの投資銀行部に転職した、私の業務は主に3つに分けられます。
- A.金融機関から不良債権を買取する
- B.事業再生案件のソーシング(発掘)
- C.不動産投資案件のソーシング(発掘)
「B」の事業再生では、ボーリング場やスキー場の再生を手掛ける企業との協働を検討していました。
温泉ホテルの実査の他に印象深かったのは、スキー場の買収&再生案件。時期が夏場だったため、リフトなんか動いていない。
— 奥野 良孝🌤️ヨシオクノ.com (@YoshitakaOkuno) August 30, 2019
車で数カ所を回りながら、各々の場所で雑草の茂る急斜面を歩いて登る。日差しを遮るものなどないし・・・
もうキツイ、キツイヽ(´o`;
もうこの歳になったら無理だなー。。
「C」については、RISAが2004年に投資家ジョージ・ソロス系のファンドとの合弁で設立した、不動産投資ファンドの案件をソーシングしていました。
金融機関の不良債権処理をサポート
上記「A」について少し詳しく説明しましょう。更に3つのパターンに分けられます。
- バルクセール
- 個別の債権買取
- 地域企業再生ファンド
バルクセール
「バルクセール」というのは、数十件~数百件にもおよぶ不良債権を一括で買取(銀行側からみれば売却)する方法です。
ドラマ『ハゲタカ』で、不良債権リストの査定額にずらりと「¥1」の数字が並び、銀行側が狼狽するシーンがありました。
アレです。ポンカス債権※が中心なので、ほとんど値がつきません。
(※業界用語で、換金できる担保等がある債権をコア債権、それ以外をポンカス債権と言います)
ドラマと同じように、旅館ホテルの実地調査も行いました。
個別の債権買取
バルクセール扱いにならない不良債権は、個別に検討を行います。
金融機関側が不良債権をバルクセールに組み込めない理由は様々あります。例えば次のような・・・
- 担保や保証でまとまった回収が見込める債権
- 金融機関にとって無下に扱うことができない大事な(または面倒な)取引先
こういった取引先に対しては、個別案件として慎重に売却を進めるのです。
債権売却先の選定は入札方式がメインとなります。
そのため、RISAのような「買う側」は、入札参加の指名を受けるべく金融機関へ盛んに営業をかけました。
地域企業再生ファンド
「地域企業再生ファンド」は地域の金融機関と包括的な提携関係を結び、上記の「個別の債権買取」を行う方法です。
債務者側のモラルハザード(=責任感が欠けること、倫理観の欠如)を懸念する金融機関は、おおっぴらには債務免除はできません。
そこで、地域企業再生ファンドのような仕組みを使って、実質的に「借金棒引き」します。
そういったDPO(Discount Pay Off)の手法と意義について、金融機関の研修で私が講義することもありました。
図らずも OWNDAYS の再生で役立った
方法はいくつかあるにせよ結局、銀行では不良債権を売る側→RISAでは不良債権を買う側に変わったのです。
図らずも後々、”破天荒フェニックス” OWNDAYS の再生に取り組んだ時に、不良債権の”売りと買い”両側の裏側を知っていたのは強力な武器となりました。
OWNDAYS は金融円滑化法に便乗していない
2009年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」は、”中小企業や住宅ローンの借り手が金融機関に返済負担の軽減を申し入れた際に、できる限り貸付条件の変更等を行うよう努めることなどを内容とする法律”です。
実は OWNDAYS は、2008年7月に返済リスケジュール(以下「リスケ」)の申し出(返済負担の軽減を申し入れ)をしており、「金融円滑化法」に乗っかったわけではありません。
しかし半年毎の契約更新を続ける過程で、銀行によっては「金融円滑化法」に準拠した稟議手続を行っていました。
制定されたフォーマットがあって、その方が稟議書類を作るのが楽だからです。
新任の副支店長がマウントを取りに来た
すると何年かして、ある銀行の応接室で融資の更新手続きを行っていた時のことです。
数年前のリスケ当初の事情を知らない新任の副支店長が、田中と私に向かって嫌味たっぷりに言いました。
「3月末で金融円滑化法が失効します。オタクへの融資をどうするか決めなきゃいけないのですよねぇ。
取引を継続するか、融資債権をどこかへ売却するかね・・・」
銀行側の脅しに対し逆襲した
私はカチンときて、強い調子で言いました。
「債権売却するって? あなたいくらで売れると思っているのですか?
私は前職で御行の不良債権を何度も購入しましたけど、こんなポンカス債権は残高2億円あったって、せいぜい100万円から200万円ですよ」
「上等だ!社長、いきなりこんな言われ方をされるのなら、うちに対する融資債権は売ってもらいましょう!
新しい債権者と話をつければ大幅に借金棒引きにできるから、むしろ我々からすればウェルカムだ!
何なら今期の決算は大赤字を出して債権売却がしやすいようにして差し上げましょうか!?」
私がそう畳み掛けると、副支店長は途中から目が泳ぎ始めて「いやいやいゃ・・・」と大人しくなり、その後はとても親身になっていただけました(笑)
投資会社での案件検討の方法は、銀行時代に行っていた企業分析とは相当に異なります。
大きな刺激にもなったし、色々と新しいことを勉強するモチベーションも高まりました。
ただしそのうち、私の気持ちの中ではだんだんと、自分が行っている業務に違和感を覚えるようになっていったのです。
(第4回へ続く)
(第1回)破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 の基礎を作った銀行員時代
(第2回)倍返しは後味悪い!?みずほ銀行を飛び出した背景を説明します
(第3回)メガバンクを飛び出して”逆に”不良債権を買取する側に回った